人間に裏があることはアノ時より前から知っていた。
それを理解して壊れるほど俺も若くはなかった。
俺がアノ時目の当たりにしたのは、人間の奥、だ。
その人間の奥にある真実、欲望。
俺が絶望したのは 奥 だ。
「(自分自身を偽るくらい俺だってするさ)」
俺は裏を否定しない。
そしてそれは「精神的に大人になる」ことだと考える。
裏を知り裏を操り奥を隠す。
だから大人は歪むのだ、と。
「なあ…。お前、剣道でもやるか」
「…剣道?」
「ああ。お前は何か、打ち込めるものを作った方がいい」
「…それ、は」
優しく、力強く肩を掴む親父の顔を、見上げるのが怖い。俺はこんなにも臆病になってしまったのだろうか。
「親父が…、俺の『師』になるという、ことか」
「そうだな」
心が震える。教わりたいと、好奇は湧くのに。
どうしようもなく俺は、臆病になってしまった。
あるわけないのに見たくないと、親父の”奥”は。
「俺、は…何かに打ち込むのはイヤだ。親父が先生になるのもイヤ…だ。だから」
それでもどうにかして振り切れるのならば。
「だから、親父がするのをたまに…見せてくれ。独学で…俺は学ぶから」
俺が選ぶのは、この道。
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