アマゾン暮らしでの必勝法 そのいーち

「寝泊りにはクマさんが居た空き家にお邪魔することー。バッチリ居心地保障済み」

万が一家主が帰ってきた時の為の賄賂も忘れずに。

アマゾン暮らしでの必勝法 そのにー

「なるべく火は絶やさないことー。でも今回は自炊する時にだけー」

虫避けにはなるけど人避けにはならん。逆に見つかりやすくなるから今回はNG。

アマゾン暮らしでの必勝法 そのさーん

「知らない木の実を見つけたら、まず動物たちが食ってるのを確認してから採取ー」

例外としてあまりにも珍しそうだったら一つとっておく。試験のために。

「あとあと今回だけは”千里眼”を使うのを禁止する!」

いつもいつも念能力に頼るのは良くない。と、俺は思う。

何でかって言うと”千里眼”を使う頻度が増えてしまったらその分、危険が増えてしまうからだ。

まず視覚以外の情報が一切途絶える為戦闘には完璧不向き。

身の回りの警戒をせずとも良い、そのくらい安全な状況でなければこの能力は使えない。

普段から身体一つで何とか出来るようにしておけと、ジンさんからも言われていた。

というワケで俺はメガネを外す。ひさびさの裸眼だ。

ほんのちょっと眼にオーラを集めて視界を良くする。

…ホントは久しぶりのアマゾン生活を堪能したいだけだったりする、のはココだけの話。

「かぁ〜〜〜!やっぱ森は良いなあ、濃密なマイナスイオンのシャワーを浴びているようで爽快だ!」

ちなみに俺はマイナスイオンが何だか分かっていないけど取り合えず『マイナスイオン効果』と書かれていたら何となくその商品を買ってしまうタイプだ。

「すぐ飛行船に戻ってもカマ男からなんか迫られそうだしな…。しばらくはココら辺をぷらぷらしよーっと」

鑑定を受けるのなんて最終日だけで良い。

その間に修行をしつつ、こっそりソレらしき物体をかき集めておけばなんとかなるだろうという考え。

もし新種生物とやらを発見できなくても、そん時はそん時。切り札(千里眼)を使えばいーのだ。出し惜しみしてもイミ無いからな。

そうと決まれば比較的心はラクだ。

さて…何から始めようかな?






誰が…カマ男だって?






俺は瞬発的且つ無意識にドドンパも真っ青な勢いで逃げ出した。


「逃げるなっ!」
「ぐへぇ」


しかしそれよりも素早く首根っこを掴まれてしまい、ジャイアンに捕まったのび太よろしく身動きが取れなくなってしまった。

反動と勢いに圧された首がキュッと絞まる。意識飛んだぜ

「あんでお前がここにいんだよ!今は試験中!公私混同はんたー……どちらさまですか?
「お前は目か頭がザルか」
「……え、ホントにロゼリザさん?」

俺の記憶の中でのロゼリザと目の前に迫る正真正銘の男(いちいち顔が近い)の姿がいまいち一致しない。

声はそのままなんだ。じゃあこれが化粧と鬘を取った、ヤツの本来の姿なのか。

「ロゼリザは偽名だ。俺の本当の名前はシュバルトと言う」
「ああ、源氏名ね」
「ぎ・め・い・だ!!」

シュバルト、と言えばコイツ自身が俺に問いかけてきた名前だ。

「変な方法で俺を試すな。もし本人だったらアンタどうするつもりだったんだ?」
「…」

海よりも深く沈黙するシュバルト。知り合いに見つかるのが気まずいんなら女装なんて最初からやるな。

「…本人なワケがないから話しかけたんだろう」
「わーってるよ。せいぜい試験が始まる直前になって俺の存在を知ったんだろう。自分の名前を出したのだって確信犯だ」
「ふん。そんなことはどうでもいい。どんな手を使ってそんな姿をしているのかは知らんが、好い加減に化けの皮を剥がしたらどうだ?」

化けるも何もこれが地ですから。

俺は口には出さずにシュバルトの顔を押しのけて態度であらわした。

どうせ俺の口からは本当のことは言えない。適当に誤魔化してもコイツは納得しないだろう。

…あー、だからめんどくさかったんだよ。

「とにかく今は試験中だ、俺は忙しい!」
「たった今『その辺ぷらぷらしよーっと』とか言っていただろう。俺だって仕事がおしてるんだからな、今のうちにお前の正体を暴いてやる」
「っち。これだからオカマはしつけーんだよ…昔っからそうだ珍しく女の子に声を掛けられたと思えば顎ヒゲが…」
(↑全世界のオカマさんごめんなさいこれでも私はオカマさん大好きです:管理人)
俺はオカマじゃねええええ!!
「ああん!?それじゃあなんだ、コスプレ趣味のオタクか貴様は!!」

これだけ素で怒りをぶつけたのは、ジンさんに散髪をしてもらった時以来だ。

だが怒り狂っているのは寧ろシュバルトのようで、あろうことか思いっきり俺の額に頭突きをかましてきやがった。

「いってーーーー!!!」

胸倉を掴まれたまま額を押さえる。

ちくしょう何で俺がこんな目に!?

「何すんだよシュバルト!!この石頭!!」







――――その時だ。怒り心頭で般若の形相だったヤツの目が、確かにかいろぐのを見た。







なんでこいつが、そんな目をするんだ。まるで、俺を通して愛しいものを見るような目で、俺を。

「――その顔で、その声で…二度と俺の名を呼ぶな」

そう思うのならばそんな顔しないでくれ。

そんな顔で言ったって、逆に”呼んでくれ”って縋られてるみたいで。







…今まで頭の片隅の片隅で、それとなく思っていたことがある。



この世界に来てから初めてだ。最初から俺の存在を疑って近づいてきた人物は。

幻影旅団、おそらく何らかの形で世界的に有名であろうもう一人の自分。

それらのキーワードからして、そういった人物との接触は最高レベルでの警戒が必要となる。

簡単に言えば「人違い」で殺されてもおかしくはないということで。

シュバルト。けれどこの男は…。



「余計なことは言うな。俺はお前を…殺そうと思えば今すぐ殺せる立場でもあるんだぞ」
「そんなことしねぇだろ、あんたは」



別段取り繕う必要性すら感じない。

こいつが俺につっかかってくる度

触れてくるたび

俺がシュバルトから受け取る感情は―――――愛慕だった。




「……はぁ」

長い沈黙を経てシュバルトは俺の襟から手を離した。

やや爪先立ち気味だった足がようやく地に付く。

「中身も似てるかと思ったら…やっぱりお前は別人だ」
「ばーか。何を勘違いしたかは知らんが当たり前なこと言うな」
「もう一度問おう。お前は何者だ?」

静かに、過去一番に穏やかに、けれどお互いに真意をぶつけ合うようにして向かい合う。

これはこれで、駆け引きと言うのだろう。






「俺は、だ」



















――――返事とばかりに帰ってきたのは、右ストレートだった。





「ぃ……ってぇえええええええ!!!!」
「だから俺が聞いてんのはそういう事じゃねーって言ってんだろ!好い加減にしやがれこの化け狐!!」
「だーかーら!俺の口からは言えねーっつーの!とにかく俺はだ!!」
「まだ言うかこの…―――ッ!?」

俺の右手を乱暴に引っ張り上げた為に、手袋を外していた手に巻きつかれた包帯が解け落ちた。

先程とは違った意味で目を見開きシュバルトは閉口する。

「ま…さか。ここまで…」

痛いくらいに手首を握られて思わず顔を顰める。

「は…なせよ!!」
「黙れ!!!!」
「…っ」

明らかに緊迫した様子で俺の右手の甲を凝視する。

ここまで、とはつまり…

「この傷まで再現されるだなんて、貴様本当に、どんな方法での姿をしているんだ」

「…、」

思いがけないところで、「もう一人の俺」と、俺が、リンクしているという証拠が発覚してしまった。

…今なら聞けるのだろうか、この傷について。

「(ダメだ、そうすると芋蔓式に俺のことも話さないといけなくなる…。何て言えば、何て)」

予想外のことに俺の心臓は早鐘を打つ。

ここにきてシュバルトも警戒を露にして俺を睨みつけた。

…ちくしょう!恨むぜ、半月前のジンさんと俺!



「グゥオオオオオオオ!!」

「「!!」」



その時俺は内心叫んだ。神は蘇っていた―――!!

ナイスタイミングで出戻りしてきたと思われる巨大熊が草陰から飛び出してくる。

油断していたのか、予想以上に驚いていたシュバルトの手を振り解き、俺は騒動に紛れてその場から逃げ出した。

「あっー!てめぇ!逃げるな!!!」

バーカバーカ。と舌を出しながらここぞとばかりに自慢の足で突っ走る。

森の中での奇襲なら免疫が出来ていたから逃げられた。

ジンさんの強烈な修行メニューに今だけ感謝!












…その頃シュバルトは。

「チィ!あんの糞餓鬼めーーーってうおわ!」

――――とは正反対の道へと逃げて、こけそうになっていた。

「グゥオオオオオ!!」
「なんで俺の方に向かってくるんだーー!?チクショウ、この島の動物を傷付けたらリーのヤツに殺される…!」













「……向こうに行ったみたいだな。賄賂置いておいて良かった…」


やがて後ろを振り向いた青年の呟きを、彼が知ることは叶わない。