「あー、なんだ、もう年明けちまったのかー」
今、俺の目の前に居る男は相も変わらず訳の分からない場所で訳の分からないことをやっていた。
そうやって間延びしたしゃべり方をするのも変わっていない。
「…まさかこんな形で見つけられるとは思わなかった。やっと捕まえましたよこのロクデナシ師匠」
『やっと捕まえたぞこのロクデナシししょー』
「ハハハッ!アイツとまんま同じこと言ってら」
そうやってごろんと寝返りうつのは大木の上。腹の上に置いてあった鳥の巣を持ち上げ、枝の付け根へと移動してやる。
俺に触れられればメシだ。と言って三日三晩休まずに追いかけっこをしたのはまだ拾ってから一週間ほどだったか。
凡人もいいトコなアイツがとんでもない姑息な手を使ってきた時はどんなバケモノかと思った。
実際、そこそこ凡人なバケモノに育ってくれた。
「取り合えず降りて来て下さいよ。そんな所にいられちゃブン殴ることも出来やしない」
「わーったよ、ご褒美に殴られに行ってやる」
一段と逞しく感じられたカイトににやにやしつつ、ジンは景気良くその場から飛び降りた。
着地するまでたっぷり12秒は間があった。この師匠は相変わらず無謀だ。
タトンと小気味良い音が鳴った瞬間に繰り出される拳。
しかしそれは手応えを感じることなく空を切るのみ。
「…おとなしく殴られてくださいよ」
「まだまだだ、な。でももう、俺の教えることはなにも無い」
告げられるのは過程終了の言葉。とてつもなく聞きたくて、けれど心の片鱗では聞くことを拒否していた言葉。
まだまだ教わりたいことは山ほどある。自分が一人前になったとは思わない。目標は、未だ遥か高みに居るのだから。
「―――ありがとうございました」
「ああ」
今はまだ 遥か遠い―――。
つーたかつーたか つったかた
お昼はお肉だ つーたかた
色がおかしい ホレよいしょ
ナイフで切れねぇ 何の肉♪
「(バカ野郎、アマゾン暮らしを舐めんじゃねえ
コレはゾウワニの肉だぁぁぁぁああ!!)」
ホント何考えてやがんだハンター協会!!?
ワニの肉っちゅーんは確かに食えないこともない。以外とヘルシーで俺は好きだ。
普通のワニの肉ならば。
「(ゾウワニって知ってるか?アイツら体がデカイだけじゃなく文字通り鼻もめっちゃ長いんだぜ。しかもALL紫の色素ときたもんだ。紫のワニ革財布とかちょっとかっこいいじゃねぇかよ)」
革としては素晴らしくても食用で食べようとは思わない。
俺のサバイバル生活で培ってきた経験が今モーレツに赤信号を発している。食うなキケン、と。
『間もなく目的地へと到着致します。三次試験の説明会を行いますので、受験者の方々はエントランスへとお集まり下さい』
少し高めの男性の声が船内に響き渡る。(イメージは石田彰)
想像の中の四刀流の顔と今流れた声とを照らし合わせ、少し絶望した。
いやまて、試験官がアナウンスをしているとは限らない。そうだ、とにかく祈ろう。
全く手をつけなかった食事をそのままに俺は食堂からエントランスへと向かった。
「やあじゃないか、一緒に行かないかい?◆」
「…あ(うわヒソカじゃんすっかり忘れてた)」
「……ボクも人並み傷付くんだけどなぁ★」
「…(ヒソカの人並み?素顔が以外にマトモだってことか?)」
「…」
ちなみに俺からしてみればヒソカの素顔も十分マトモではない。
十人並みな俺からしてみればブン殴りたいほど男前だ。残念なことにブン殴れないが。
「ああもう全部顔に出てるよ、意外とキミは感情を包み隠さず表に出すタイプのようだ。強化系かい?」
「…っ、ちっげぇよ!!」
「…ホントにキミは可愛いなぁ◆」
うわあああ さささ、さぶいぼがっ
なんちゅーこと言いやがるんだコイツは、ちくしょうブン殴りてぇブン殴れねぇ!!
「…。とにかく俺は一人で行く。お前も一人で行けよ」
「やっと出てきてくれた。ソレが本当のキミかい?★」
いよいよヒソカ相手にブチ切れてしまいそうだ。
だめだ、はやまるな俺。命を大切に命を大切にペットボトルは洗って捨てよう。
「可愛いvますますボク好みだ◆」
「ああ残念。違います、勘違いです。人違いです」
触らぬ神に祟り無し(?)。
それだけ言って俺は無駄に俊敏なその脚をフルに使って逃げた。ライトスピードを体感した、…ごめんちょっと大袈裟でした。
「おや、早いですね。貴方が一番乗りですか、噂の69番」
「………。ええっと、次の試験官は」
「私です」
「(ウソだろ…!?)」
なんてことだ!どこをどう見ても正統派美形のメガネ君ではないか、神は死んだ。
石田声のめちゃくちゃ似合うその試験官は、リーと名乗った。
どうやら名前からしてチャイニーズらしいが顔は明らかに欧米の人である。
…そう言えばハンターの世界では中国もアメリカもないんですよね。合掌。
「どうやらキミはもう念を使えるようだ。どうです?試験は簡単ですか?」
「…試験
だけならまだ」
「そうですか、それなら次の試験もキミなら通過出来るでしょうね」
「はあ、それはどうも」
「…う〜ん、話とちょっと違いますね」
「?」
「『69番は何を考えているのか分からない、とにかく変態だ。脱がされないように気をつけろ』と言われていたのですが」
「…それを言った人物は今どこに」
「この船に乗っていますが?」
「っだあああああ!!ウゼェ!変態なのはテメェだろうカマ男!!それはどうでもいいから早く帰ってくれ!」
そのセリフを言った時のロゼリザの顔を思い浮かべて思いっきり殴ってやった。
実物を殴ってやりたい気もするが、とにかく今は早く諦めてどっかに行ってほしい。
俺は死んだ神を蘇生させるがごとく祈った。
「37人全員集まりましたね。それでは目的地まで到着する間に、次の試験の説明を致します」
途中でエントランスに入ってきたヒソカの粘着質な視線を感じつつ、俺は総シカトを決め込んでリーの説明に聞き入った。
「現在向かっているのは”The island that crosses the equator”つまりは赤道を横断する島。
この島は常に移動していて所在を掴むことは困難と言われています。
気候や気温も常に不規則でこの島にしか存在しない未確認生物も未だ多く残りとても危険な島です。
貴方方には今回、その島で一人一種類ずつ、登録の確認されていない新種生物を見つけ出してもらいます。
期間は6日間。
その間は何度でも鑑定を受けて頂いて結構です。
新種登録が済み次第合格ということで飛行船に戻ることが可能です。
新種には植物、生物どちらでも構いません。
更におまけの特典として新種には見つけた方のお好きなように名前を付けて頂きます。
期間内に戻って来れなくても詮索隊が派遣されますのでご安心を。
それでは皆様。しばらくの快適な無人島生活をお楽しみくださいませ」
爽やかにエグイ内容を説明したリーの背後で扉が開く。
一瞬の突風に視界を遮られ、目を開けたときにはその強烈な日差しに目が潰れる思いがした。
まさに南国。
なんだか懐かしい感覚に、俺はこの試験を余裕で通過できるというどこか確信めいたものを感じた。
三次試験、いただいたぜ。
「お先に失礼♪」
誰よりも早く、まるで故郷に帰ったかのような足取りで俺は無人島の砂を踏みしめた。
目前に広がる熱帯雨林にジンさんとのサバイバル生活の記憶が蘇る。
まずは、植物あたりに標的を絞りつつ、ねぐら探しだな!
「そういやジンさん、あのって奴は、何者なんです?」
「お、お前アイツに会ったのか」
「ジンさんを追って小屋に行った時に会いました。二週間くらいずっと捕まってましたよ」
「アッハッハ!そーかそーか」
何故か爆笑しているジンさんに、俺はつい先日分かれたの苦労を思って少し同情した。というより、共感した。
「やっぱアイツはカイトのこと気に入ったんだな。何モンかって?教えてやるよ、アイツからは言いたくても言えんだろーしな」
「…?」
ジンさんの思いっきりニヤニヤした顔になんとも言いようのない不安が立ち込めてきた。
。
自分の核心に触れた部分について聞かれるとさりげなくあしらって話を変えていた。
どこの出身なのか
なにを探しているのか
最初の二日間語り明かした内容といえば、3ヶ月間のジンさんと過ごした間のことだけだ。
俺もジンさんに出会うまでは人に語れるような過去は持っちゃいない。
果たしても俺と同じような人種だったのか。そう考えてもイマイチ当てはまらず。
闇を抱えているようには見えなかった。とてもじゃないが。
それでも何かに必死だ。例えるならそう、”当然”を奪われて必死に影のないナニカを探す、迷い人のような。
説明しづらいが、俺にはそう見えた。
嫌いではないと 思った。
「アイツはな、違う世界で生きている自分を探している、俺たちから見れば宇宙人のよーなもんだ」
「は?」
宇宙人ときた。
「…俺はジンさんが抽象的な物を苦手としているのを良く知っている」
「ああそうだな。だから俺は比喩でもなくてありのままを説明した」
「………は宇宙人なんですか」
「ま、そんなよーなもんだ」
軽くめまいがした。この師匠はとうとう宇宙人を拾ってしまったのか。
「最初は原始人かとも思ったんだがな、別に話は通じるしその話を聞く限りどうにも厄介なモンに巻き込まれたみたいで、助けてほしいと泣きながら胸倉を掴まれた」
「…(原始人…?)」
「まあ身体の構造とかはオレ達と何ら変わらない凡人だ。クソもするし酒グセも悪い。面白そうだからいっちょ育ててみたって訳だ」
「…が探している、もう一人の自分ってのは」
「そのまんまだ。この世界で生きているもう一人の””、そいつを見つければ元の世界に帰れるらしい」
遠い、非現実的な話だ。まだ人間じゃなくて魔物だと言われた方が納得できる。
そんな話を、この人は面白そうだからという理由で真面目に受け入れたらしい。
「なんでそんな話を…俺にしたんですか」
俄かには信じられない話だ。例えばそれが本当の話だとしても…そんなこと、簡単に第三者が第三者に話して良いのだろうか。
「別に深い理由はない。アイツの能力の関係上、自分の口からは説明出来ないだけで。自身が信用しているヤツになら俺から話してやっても良いだろう」
「…」
信用、俺はあんな短期間でそこまで信用されたのだろうか。
…そう言えばアイツ、世間知らずな割にはハンター試験には詳しかったな。
ますます分からないヤツだ。
「そういやアイツ、俺が居なくなってからは何してた?」
「ああそうだ、ハンター試験を受けに行きましたよ」
間。
「…マジ?」
軽く引きつった口元で「あーバカだなアイツ…」とジンさんは呟いた。
「?別に程の念使いならハンター試験くらい合格できるでしょう?」
「いや、確かにそれはそうなんだが…。今回の四次試験は確か…」
「?」
四次試験に何かあるのだろうか。というより何で国家機密レベルの試験内容をこの人が把握しているのだろうか。
まあそこら辺は『ジンさんだから』という事で流すとして。
「どうしたんです、四次試験になんか問題でも?」
「ああ、大問題だ」
何故か俺はその時、数日後のの悲鳴が聞こえたような気がした。
≪ ≫