「”自動(オート)検索”」
そう呟いたとたんに俺の全神経は視覚に集中する。
検索対象は「ゴールまでの最短距離にいるターゲット」だ。
「いたいた…。このペースで行けば鉢合うまで約5分ってトコだな」
どっかのオカマさんのせいで急いで行かなければ間に合いそうも無い。
ぐん、とスピードを上げて俺は暗闇の中を突っ走った。
「みーっけ」
相手は未だ猛スピードで向かってくる俺に気付いていない。
検索対象を素早く切り替え、相手の”バッチ”のみに対象を絞った。
「!!」
俺が目の前に来てようやくハッとしたように臨戦態勢に入ったターゲットは、両手両足に中途半端に鎖の付いた枷を付けていた。
そういやハンター試験って、刑期軽減の代わりに囚人を雇ったりするんだっけ。
ホント、趣味わりーよな、ハンター協会って。
「時間がない。早くその右ポケットの中にあるバッチを渡してくれ」
「!! チィッ」
ギクッと顔をこわばらせたターゲットは、右ポケットを庇うようにして構えなおした。
「…ここまで守り抜いて来たんだ、そう簡単に渡してたまるかよ!」
ふと周りを見渡してみると、2,3人ほどの受験生らしき人間が倒れていた。
生きているかは判別できないが、その様子からして素手で叩きのめされているようだ。
ふむ。やっぱり戦わなくちゃいかんようだな。
「しゃーねーか。まあこのくらい、『ダイオウハゲワシタカの巣から卵を取ってくる』っていう修行に比べれば梅レベルなんだと思えば良い」
全長5mのダイオウハゲワシタカの夫婦に追い掛け回された時の恐怖を思い出して、俺は気合を入れなおした。
「(当然のように念使いじゃないか。そりゃそーだ)」
試験中に能力者なんてぶっこんだらそれこそ受かるもんも受からねぇ。
一応、お師匠サマの受け売りでシロートには念は使わないという信条があったりする。
(俺は捻くれてるから例外の時はバリバリ使うことにしているけど)
(例えば一昨日のカジノに行ったときに”千里眼”を使ったり…ごめんなさいホントお金無かったんです)
「…っくたばれ!!」
「おっと」
興奮している死刑囚から先手のパンチが飛んできた。
危うげもなくソレをかわした俺は、その自慢のスピードで相手の首裏あたりに手刀を落とす。
「…っ」
「Good night」
声も無く意識を飛ばした男の身体がドサっと横たわり動かなくなる。
それを確認した俺はふっと顔を緩ませた。
ヤバ、俺ってば今ちょーかっこいくね!?かっこいくね!?
っかー憎いねこの男前!とばかりに額をべしんとはたく俺。
ちなみに俺に初めて彼女が出来たのは19歳の時だ。
高校時に出来なかったのは男子校だったからだと俺は説明する。
「よしよし。それじゃあこのバッチ、貰っていくな」
どんな罪を犯したかは知らないけど、残りの刑期はまっとーにムショの中で悔い改めてくれ。
バッチを左の袖に付けてから再び凝をし始める。
もうバッチは手に入れたので検索するのは「ゴール」のみだ。
「残り時間約30分…最短ルートを走っていけば十分間に合うかな」
うっし。それじゃあいっちょマラソンしますか!
「受験ナンバー69番。所要時間53分12秒で…合格ね。(ッチ)」
「オイコラ聞こえてんだよくまさんパンツ」
一次試験会場に舞い戻ってきた俺を出迎えたのは、いつの間にここにやってきたのかロゼリザの舌打ちだった。(もう女扱いなんてしねぇ)
「…どこの馬の骨だか知れん奴がこの俺様にケンカを売ろうだなんて一千万年はえーんだよ二度と言うな」
「スカート破れちゃったからジーパン穿いてんの?これカツラ?」
「貴様…ッ!!」
今のコイツの格好ときたら、レディーススーツに下ジーパンといったなんともミスマッチなファッションである。
スーツはまだマシとして、ゆるやかウェーブのロン毛のせいでどうにもカマっぽさが抜けない。
ためしに引っ張ってみたらちょっとズレたので、これはどうやらカツラのようだ。ちょっと安心。
「お前の正体や”名前”については試験の後でゆっくり尋問してやる。俺は気は長くない。だから早く落ちろ」
「残念なことに俺は何が何でも今回の試験で受からないといけないんで、待ってなくても結構です」
「………俺はお前を””だとは認めない」
「……」
それだけ吐き捨てると、ロゼリザは新たに合格した受験者の元へと去っていった。
…やっぱりアイツは「もう一人の俺」を知っている。
それも深く。「」の人格までもを知る人物。
俺はお前を””だとは認めない
―――じゃあ俺は誰なんだ。
「…」
パチン
「どーしたんだよアニキ。仕事でも入った?」
「いや違うよ。単に知り合いから、近状報告ってとこかな」
「は…?(アニキに近状報告するような知り合い?)」
イルミは能面な表情を変えることなく携帯を閉じた。
つい先刻ここを発った彼を思い浮かべ、今来たメールの内容について思案する。
「う〜ん。アイツもそんなにバカじゃないからちゃんと見極めてくれると思うんだけどね」
「アイツ?ってのこと?」
「いや、じゃなくて筋肉バカのこと」
バカじゃないと言いつつしっかりバカにしているイルミも大概辛辣である。
兄の意味不明な話にクエッションマークを飛ばすと、キルアは窓の外へと顔を向けて空を眺めた。
青空を見て思い出すのは先ほどまでこの家に来ていた青年の顔。
「、ちょっと変わったね」
「…そう?」
「うん。…ちょっと、とっつきにくくなった感じ」
「そうだったっけ?」
「…もう良いよ」
まったく話の噛み合わない兄にキルアははぁ。と溜息を吐いた。
再び空へと視線を向けたキルアを一瞥してイルミはさっさと部屋から出て行く。
キルアからしてみれば2年ぶり、イルミからしてみるとほんの一週間ぶりに再開した青年の名前は、「」と言う。
3年前から活動を始めたフリーの殺し屋で、ゾルディック家からすると商売敵にあたる。
近頃は名前も売れてきたようで仕事場で鉢合うことも増えてきた。
その度に先を越され目の敵にしているのはシルバとゼノだ。
ゼノにいたっては「あんの糞餓鬼今度あったらミンチにしてミケの晩飯にさしたる」といって仕事場に出刃包丁を要持参する程だ。
今日はたまたま二人とも仕事で家に居なかったが、が家に来たことを知ったらと考えるとちょっと血の気が引く。
「…ハンター試験に””…ね」
俺には関係ないし本人に言えば?って返信したところで5秒後に携帯が振動した。…ちゃんと試験官の仕事やってんの?
件名: |
本文
バカ野郎今のアイツにんな余計なこと言えないだろうが。害があるようなら俺がなんとかする。 |
「それなら尚更なんで俺にそんなこと伝えるの?…っと。」
こんどは3秒後。
件名: |
本文
念の為それとなくに注意を促してくれ。居るんだろう? |
もう帰った。
そう送った後はシュバルトからのメールも来なくなった。
一体なんだったの。と溜息を吐いてから自分の部屋のドアを開く。
俺には関係ない話だったけど、少し興味を持った。
今や裏社会で彼の名前が囁かれない日は無い。
ぼったくりだろうって値段をふっかけることでも有名だけど、仕事の速さでは俺たち家族に比べても圧倒的だ。
初めて会った時からなんとなく意気投合して今でもたまに会ったりする。親父たちには言えないけれど。
「事情は知らないけど、””を名乗るだなんて命知らずだね」
は感情で人を殺すことを厭わない。
少しでも気に食わなければ簡単に人を殺す。例え依頼人でも。
そういう「出身」だからか。
「ま、アイツからこんなメールが来たくらいだから、ちょっとは厄介な相手なんだろうけど」
どーでも良いか。と他人事のように仰げるのは、やはり他人事だからである。
イルミが””と出会うのは、この半年あとのこと――――。
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