制限時間一時間。

更にルールとして手に入れなければならないバッチには、制限がある。

まぁ所謂、「一刻の猶予も無い」状況なわけだ。

「アンタ、何者だ?」
「(厄介なことに…)」

俺はどうも簡単には済まされない状況に陥ってしまったようだった。

「…何者とはどういう意味で?俺の名前でも聞きたい…ってワケじゃなさそうだな」
「…」

似合ってんだか似合ってないんだかロゼリザという名前の…たぶん男は、俺の思惑すべてを見透かすように視線で貫いてくる。

決して誤魔化しの利くような相手じゃあない。でも本当のことも…言えない。

(今になってなんでこんな”誓約”にしたんだって後悔してきたぞ)(後悔先に立たず…俺の座右の銘か)







俺の念系統は強化系。

一体俺のどこが単純一途なんだ!?って勢いで言ったときにはジンさんに「全部じゃねーかよ」と言ってズバリ返された。

こんなコテコテのボケツッコミを繰り返すのはきっと俺達がまだまだみずみずしい精神の持ち主だからだ。

断じて俺がオヤジ臭いとかそんなんではない。断じて。

そんなことは言ったが、別に俺は強化系に対しては特に文句はなかった。

かの有名なサイヤ人だって、例えるならば明らかに強化系のソレそのものではないか。

己の肉体のみで強さを求める。

まさしくそれは…男の美学、ロマン。(ゴホン、白い目で見ないで欲しい)

元々強くなることに貪欲だった俺は、体術においては意外と良い伸びを見せていた。

ちょっと自慢だけど、スピードはジンさんの八割、パワーは五割まで追いついてしまったらしい。ジンさんが言っていた。

ジンさん以外に比較する対象が居なかったからイマイチ実感はないんだけど。

そこで問題になるのは、要となる念能力、必殺技だ。

俺がジンさんに即答で返した一案はコレ、「掌に自分のオーラの全てを絞り込んで放出する技」。

まぁ言うまでも無く「才能がねぇ。もっと現実的なものにしろ」と一刀両断されたんだけど。(さすがにちょっとショックだった…)

長年の夢が叶わないのだと理解してからは、便利な能力、ということに絞って考えを練った。

それは練った。うんたらかんたら…とにかく練った。

たまにジンさんと一緒になって試行錯誤を繰り返したりもした。

だけど今になって思う。



師弟揃って行き当たりばったりの性格では、そんな立派なものは生み出されないだろうよ…。と。



結局「自分と相性の良いもの、または道具」が第一のジンさんの考えと、「複雑な条件を付けなくても便利なもの」

という俺が出した条件で生み出された「千里眼」という念能力。

元の世界から「眼」に対して並々ならぬ執念を持っていた俺だ。

俺が念を覚えて真っ先にやったことは「眼」の強化だった。なんて麗しき裸眼の世界。


『眼の能力にしたらどうだ?』


―――まさに鶴の一声である。

おっちゃんに作ってもらったこの―――耐熱・強度・外装・柔軟さ。やや濃紺なレンズでどれをとっても一級品なメガネをかけ、凝をする。

そうすると俺を中心とした半径100km内の場所ならどんなモノでも「視る」ことが出来る、という能力だ。

視ている間は凄まじい集中力を要するために、視覚以外の全ての感覚が閉ざされてしまう。

だがそれでも充分に重宝する能力だった。

自分が視たいと思った場所や人物を見つけ出すだけでなく、指定した対象に限りなく近いものを自動で絞り込んでくれる自動(オート)機能。

例えば「最も俺に近い念能力者」という検索をかければ、かってにメガネ越しでその”誰か”を映し出してくれる。

…これはうまく使えば危険回避、探索等にはうってつけ。

テキトーに歩いて凝をしていれば「もう一人の俺」を検索し続けることも出来る。なかなかに良い能力だ。

ただし最初の頃は半径100mが限界だった。

ジンさんによれば「円と同じ範囲でしか視れないんじゃないか」…とのことで。まさにその通りだった。

それからの一ヶ月はひたすらに円の修行をした。それでも1kmが限界だった。


円としては充分だが、お前の能力ではまだまだ足りないな。なら最終手段として…


そこで俺はこういう”誓約”を作った。





     これから先 他人に自ら「異邦人」だということを漏らした時 俺の双眼には二度と光が届かなくなる





命を懸ける度胸はない。だから、命の次を選んだ。

盲いること、昔から極端に目の悪い俺はそれを何よりも怖い事だと思っていた。

…結果、検索範囲を飛躍的に伸ばすことが出来た。








「(…この場合、俺は何て答えるべきなのか―――)」

逞しい腕の中でぐるぐると頭を回す。もちろん物理的にではなく比喩だ。

「質問を変えよう。シュバルトという男を知っているか」
「…?シュ…バルト…?」

黙秘を続ける俺に埒が明かないと悟ったのか、ロゼリザは別の質問を投げかけてきた。

…だが今度こそ意味が分からない。

シュバルトってなんだ、人の名前…?

いよいよ物理的に頭を回し始めた俺を、まるで密入国者の身体検査の如く用心深く観察するロゼリザ。

「嘘や誤魔化しは一切利かないぞ」
「待て、最初の質問は確かに意図的に緘黙した。だけど…その、…シュバルトという人物には、本当に心当たりは無い」
「…」
「…嘘じゃない」
「…分かった」

ぱっと腕が開かれあっけなく開放される。瞬間距離を置いた俺を見て、ロゼリザはハァ。と深く溜息を吐いた。

「まあ良い。お前の事は取り合えず保留だ。さっさと行け」
「…(ちょっとカチン)」

んだこのカマ、散々人を問い詰めて引き止めていたクセに…!

どうにもこうにもハラが立った俺は、この正体不明なニューハーフに一泡吹かせてやろうと躍起になった。

瞬間的に脳内で展開される必勝法をいくつも弾き出していく。

…その回転の良さをどうしてもっと別のところに分配できないのか。

「…テメェ言わせておけば!!試験に行く前にそのムカつく面に一発ぶちかましてやる!!」
「ククッ。とんだ威勢の良い子猫ちゃんだこと」
「お、おいっ!よせ、69番!」
「オラァアアアアアアア!!」

地面を強く蹴り、その異様に筋骨隆々とした胸板へと目掛けて飛び出した。

ザッと姿勢を低くして迎え撃とうとするロゼリザ。

俺は直前で拳を突き出し、―――――股の下を滑り抜けた。



「………は?」
「げぇ!!!?(アイツ何やってんだ!?)」



…俺は勝ち誇った笑みを浮かべ、唖然としてる試験官二人に向かってソレを投げ捨てた。

「――――…うおおお俺のススススカァートォーー!!??!!??」
「あっはっはっ!じゃあな、くまさんパンツ!!」





ハラがよじれてコケそうになりながら、二次試験開始約20分後…俺はようやくスタートを切った。