ガリリ
「今日でもう6日目か…」
いやあ、まったく早いもんですね。
俺は木に付けた六本の傷を見て哀愁を漂わせた。
この六日間は俺にとっては素晴らしい日々だった。動物たちとの戯れ、水のせせらぎの子守唄、新鮮な非常食を食べる毎日。
そう、俺にとっては素晴らしい日々だったのだ。ただ、素晴らしいのは俺にとってだけなので
軽くその六日間の描写はハブられてしまったようだが。
「そろそろ鑑定を受けに行かないとな…さっきから島全体が慌しくてこっちまで急かされる気分だ」
何よりも俺を驚愕させたのはあのヒソカが未だにこの島に居たと言う事実だ。
良く見れば何かを懸命に探しているようにも見えた。あのヒソカがだ。
なんとなく見てはいけない光景を見たようで俺は目を覆った。見なかったフリをしといた。
「フ、フハハハハ。今こそこの六日間でかき集めた珍獣や珍植物をお披露目する時がやってきたのだ…フハハ、フハ」
コツコツと集めてきたコレクションを眺めて思わず顔がにやけてしまうのは仕様が無いというもの。
これらを解き放つ時がやってきたのかと思うと鑑定が楽しみな反面、愛着が沸きすぎて手放したくないと思ってしまうところは割愛で。
俺は愛しそうにコレクションの一つである妖しげに黒光りする果物に頬擦りをした。
「さあ行こうかマリアンヌ、君のその美しい光沢を世間に見せびらかす時がやってきたのだよ」
壊れ物を扱うかのように丁寧に包みにくるんで準備に勤しむ。人格変わってんじゃねーかよとのつっこみももはや馬耳東風だ。
「たしかこの方角に2、3キロだったか」
南南東の方角を見上げて目星を付ける。
あと少し行けば目印である飛行船も見えるはずだ。
だが油断すること無かれ、何よりも気を引き締めていかないといけないのはこれからだ。
「どうせ自力で探す気のない連中が目前で襲ってくるはず。俺の可愛いコレクションたちに傷を付けないためにもいっちょ本気で行きますか!」
俺は気合を入れて走り出した。
一応それなりに他の受験者もチェックはしてあるが注意しなければいけないのはヒソカだけだった。
それでも手負いの熊もとい窮鼠猫を噛むように、こんな状況では相手も何を仕掛けてくるか分からない。
さすがに念も覚えていない素人に負けるわけにはいかない、ドラゴンボールマニアの名に賭けて俺はこの試験を合格してやるのだ!
「
タッカラプト ポッポルンガ プピリットパロォ!」
出でよ、シェンロン!!
「うそだああああああ!!!!」
「うそじゃありません。全てボツです」
案の定襲ってきた受験者を情け容赦なく蹴散らしてようやく辿り付いた先で言い渡されたのは、ボツの一言だった。
「ほらコレとか良く見てくれよ!俺だってこんな皮は黒いのに実は蛍光ピンクだなんて果物は見たことないぞ!?」
「これはサーモンオレンジと言う立派なオレンジです。東の地方では市販で販売されていますよ」
「マリアンヌーーーーー!!!」
力余って握りつぶしてしまったマリアンヌから確かに漂う柑橘系の匂い。皮の汁が飛んで目に入った。痛い。
「信じられん…この三ヶ月間のサバイバル生活を全否定された気分だ…」
「残念ですが、やり直しですね」
「くっ」
俺は落胆しつつメガネの準備をした。こうなったらとんでもねー新種を発見してギャフンと言わせてやるぞ…!
「!!! お待ちなさい!」
「ぐへぇ」
アマゾンへとリターンしていた足がたたらを踏む。
なんだこれデジャブ!?とばかりに絞まった首から変な声が出た。(だから意識飛ぶって!)
「こ、これは…!!」
俺を後ろから羽交い絞めにして首筋あたりを凝視するリー。
絞められかけた次にゴキっと鳴った俺の首はもうなすがままだ。好きにしてくれ。
「貴方これを一体何処で!?」
「は?何処でも何もまず見えないんですけど」
耳元で大声を出されるわ首筋に荒い息は掛かるわで、結構オカシな状況だったりする。
俺の首に何かあるらしいが肝心な何かが見えないんじゃ話になりませんよ!
ブチィ!
「ひぎゃーーーーー!!!」
何かちぎった! 何かちぎった!?
動脈ギリギリのところで思いっきり何かを引っこ抜かれ、俺は思わず大絶叫。
ドクドクと流れる血はいくらオーラで止めようとしても止まってくれない。
お…お花畑が。
俺の意識はそこで途絶えた。
つんつん
「ん…」
つんつん ぷに
「なんだよ…」
ばさっ するするする…
「…?」
混濁した意識の中。
俺を覆っていた重みが無くなった、と思えばすぐにまた別の何かが圧し掛かってきた。
重たいと思う間もなく暖かいような冷たい何かが俺の腹の上を這い回る。
くすぐったくて逃げるように身をよじれば、すぐに腰を掴まれて引き戻された。
徐々に意識が覚醒する。
「お・は・よ◆」
「…」
お母さん、その時世界は止まったんだ。
確実に。
「うおあああああああああああああああああああ!!!!??」
ドタドタドタドタドタ
「
なんだ今の叫び声!?」
「
どうしました!?」
俺の叫び声を聞いてシュバルトとリーが駆けつけてきた。
しかし二人はベッドの上の
何かを目撃し、そのまま硬直してしまう。
「どけええヒソカアアア! ぅ……っ」
「ほらほらダメじゃないか、ただでさえ血が抜けてるんだから大声なんて出しちゃ★」
強烈な貧血に身動きすらままならぬまま、そんな俺の身体をヒソカはイイ笑顔でまさぐっていく。
目が覚めれば病室で、そして何故かヒソカが跨っていたというワケワカラン状況である。
硬直したいのはコッチだ早く助けろ試験官ーーー!!
「…はっ! いいいけません444番、早くここから出なさいさもないと失格にしますよ!!」
「………ちぇ◆」
わざとらしい舌打ちの末ヒソカはようやく
俺の上ベッドの上から降りていった。
最後の最後に血が盛大に抜けた上に顔面蒼白な俺の額に軽くキスをし、試験官二人を一瞥して病室から去ってゆく。
…し、しぬかとおもったァ…(色んなイミで)
「…おい、大丈夫かお前」
「むしろ寝ている間は大丈夫だったのか俺が聞きたい…」
「…」
イヤに乱れた俺の服を直しつつ、シュバルトは気まずそうに閉口する。
最後にあんな別れ方をしたのをお互い思いっきり忘れているようだが、まあそれも時間の問題として。
「気分はどうですか?もう少し四次試験開始を遅らせるように言っておきますね」
「はあそれはスミマセ……って、え??四次試験??」
「はい、そう言いましたけど何か?」
「俺、何時の間に三次試験受かったの?」
「ああ、貴方の首筋から発見されたとある昆虫が、新種生物だと確認されたのですよ」
「…へ、へぇー…?」
なんかそんなに爽やかに言われるような発見の仕方じゃなかったような気がするんだけど…。
なんか怖いので口にしない。
「あ、あのでも俺もう平気なんで。試験遅らせてくれなくても大丈夫ですよ」
「そうですか?まあ次の試験は激しく動き回るという内容でもありませんしね」
「んじゃ俺、アイツに言ってくるわ」
「お願いしますシュバルト。私はこの方を試験会場にお連れします」
「ああ」
そう言ってシュバルトは一足先に病室を出て行った。
ドアが閉まる寸前にコチラを見たような気がしたけど、俺には良く分からなかった。
「クス。あの人、貴方が血まみれでココに運ばれてきたとき、血相を変えて手術室まで走ってきたんですよ」
「…あのシュバルトが?」
「はい」
柔らかい笑みを浮かべながらさも楽しそうに話すリーを、俺はぽかんとした顔で見上げた。
…アイツが血相を変えて走ってくる?
想像以前に信じられない。――――…俺を、心配してくれたのか。
「(俺を、じゃなくて…。””を、かな)」
素直に嬉しいと思えばいいのに、俺は純粋なシュバルトの思いを”そんな風”にしか捕らえることが出来なかった。
だんだんと侵略されつつある
俺は囚われていっている
”” に―――――
「着きました。ちょうど説明が始まるところですね」
「あ、ありがとうございました。色々と」
「いえいえ、コチラこそ素晴らしい発見をさせて頂きましたので。頑張って合格してくださいね」
素晴らしい発見、と言ったときのリーの笑顔がなんか怖かったので、俺は見なかったフリをしてさっさと部屋に入ることにした。
椅子に座りふぃ〜っと息を吐いてからその席のチョイスの悪さに気付く。
「や◆」
「!!!!!!??????」
ガタタタ!!!
ぎょ、ぎょわーーーヒヒヒヒソカ!?
あまりに驚いたんで椅子と一緒に後ろにズッコケタ。いってぇ!
「ほら大丈夫かい?病み上がりなんだから大人しくしないと」
「ひ、ひぃ!触るな!!」
もうかんっぺきにヒソカアレルギーになってしまった俺!
もう一回触られるとアナフィラキシーショック起こすかもしれんぞ!
「コラそこ!五月蝿いぞ!」
「わ、わあごめんなさ…って(
うおおおやっときた!!)」
俺とヒソカを一喝したソイツの顔を見て思わずガッツポーズ。
まさにアイツこそ待ちに待った四刀流!これでヒソカともオサラバだぜ!
「ゴホン、それではテスト用紙を配布する」
硬直
ウキウキしていた俺を「バカじゃねーの」とばかりに奈落のドン底へと突き落とす紙。…なんですかこれ。
「制限時間は一時間。筆記試験上位8名がこの試験の合格者だ!」
「(どのツラ下げて筆記試験とか抜かしやがるんだチキショーーーーー!!!!)」
思いっきり肉体派です!と言わんばかりの四刀流の顔面に「肉」と書いてやりたい衝動を必死に抑えてテスト用紙を睨む。
ここにきて筆記試験…。
俺はなぁ事実だけ言えば読み書きは生後三ヶ月の
幼児なんだよ。
問題すら読めねぇっつーのバッキャローーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!
ラング・ベアベアー・カゴメ
286期ハンター試験合格者以上3名。
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