試験開始間近。
滑り込むようにしてエレベーターから降りてきたのは
奇怪な格好をした、奇怪な奇術師だった。
「ハイ番号札です」
差し出された札を手に取り、ヒソカは浅く息を吐いた。
444番。
ちょっと外のアトラクションで遊んでたりしたから遅くなっちゃったかな。
さっと辺りを見渡すと、美味しそうな果実を探すのがバカらしくなるくらいに人ごみで溢れかえっていた。
つまんなそうなゴミばっか。
時間も迫っているみたいだし、オモチャで遊ぶのはまだ先でイイかな。
「やあ君、新じ」
「なんだい?キミが死にたいってのなら、別に今すぐにでも構わないけど?◆」
「ヒィィ!!」
「★」
これならまだ外で遊んでいたほうがマシだったかもしれない。
あまりにダルかったら、試験管でもイイから殺っちゃおうかな。
ぐるっと辺りを見回せば、露骨に視線を逸らす人間ばかり。
シャルナークから少しは情報を貰っていたけど、今になって「お前なら寝てても取れるよ」という言葉が理解できた。
ま、別に試験中は殺しをやっても平気みたいだから、ボクはそれだけでも良いんだけどね。
「クックック」
一歩進めばその分人が避けて空間ができる。
本当なら立ってるだけで、隣の人と押し合いになるはずなのだろう。
ヒソカは笑いを押し殺しながら壁際へと歩いていった。
「…おや?」
ふとその瞬間。不自然に開いている空間が視界に入り込んだ。
他にもある、穴の開いていない壁際は、どこも先客が陣取っている。
扇形に広がった其処は、ヒソカからはその中心を確かめることが出来ない。
なんとなく興味をもったヒソカは、近づきながらほんの少しオーラを探った。
「…なるほどなるほど◆」
その空間の中心に居たのは、番号札69番。色付きメガネをかけた一人の青年だった。
「ククッ。面白いなぁ、良くこんな所で寝れるもんだ★」
オーラを感じ取った時、確かにそこら辺のゴロツキとは違う淀みの無いオーラがあった。
寝ている時はオーラを抑えるクセでもあるのか。
彼の纏は今こそ薄い膜のようなものだが、それは確実に洗練された力の流れだった。
静かなようでいて だが荒々しい存在感。
これでは普通の人間では萎縮してしまってもおかしくない。
…これはなんとも美味しい収穫を見つけたものだ。
「(それにしても…何かひっかかるな◆)」
ヒソカは屈み込み青年の顔をじっと眺めた。
寝息こそ聞こえないが起きる気配も無い。
警戒心はないのかな?こんな所で寝てるってのに。
…やっぱりどこかで見たことがある。
でも何でだろう。知ってる顔の筈なのに、何かをハッキリと思い出せない。
ん〜それにしても、可愛い寝顔だ。メガネ取っちゃってもいいかな◆
ヒソカがにこにこしながら青年の顔に手を掛けようとしたちょうどその時。
ジリリリリリリリリリリリリリリリ
「受付終了だ!参加者449名。これから一次試験の説明をする!一次の試験管はこの俺、ビーマンだ!」
「…残念★」
良いタイミングで鳴ったベルと、どこから現れたのか、人ごみのど真ん中でスピーカーを使う試験管の声のせいで青年が起きてしまったようだった。
「…うるせ…」
眉を顰めて音から逃れるように体を丸める青年。
そんな姿を見たヒソカは、ゾクっと背筋を震わせ物凄い形相で舌なめずりをした。
たまたまその時ヒソカの表情を見た憐れな受験者が「ヒィ!」と小さく悲鳴を上げる。
「いつまで寝てるんだい?★」
「………〜?」
分かりやすい位に段々と彼のオーラの量が増してくる。
…未だに状況を理解出来ないのかな?
オーラを見れば相当の鍛錬を積んできたのは一目瞭然なのに、どこかちぐはぐ。
まだまだ発展途上なのか。
「(これは益々面白いね…v)」
ククッと喉を鳴らし、ヒソカは引っ込めていた手を再び青年の顎に掛けた。
薄く開かれた口元に誘われるように顔を近づけ、そして一言。
「早く起きないと襲っちゃうよ◆」
「は」
パチっと開かれる瞳。
ようやく意識がハッキリしてきたのか、彼はハッとしたようにボクの顔を凝視した。
「こんな所で寝てるとアブないよ★それにもう試験は始まっている◆」
起き掛けこそただ驚くだけだったけど、徐々にその表情は警戒心を露にしてボクの顔を見据えてきた。
やっぱり思ったとおり★
「イイ顔だv」
メガネ越しだがようやく視線を交わすことができ、ヒソカは満足げに目を細めた。
「さ、行こっか◆」
半ば無理矢理に彼の襟首を掴み、ヒソカは意気揚々と近くにあった薄暗い細道へと歩いていった。
先着100名。
一次試験のルールは、ただ辿り付く事のみ。
単純で分かりやすいテストなだけに、時間が経つにつれて、なかなかゴールが見つからずイライラとする者たちが増えていった。
どこまでも同じ光景。募る焦燥感。
3時間経過した頃には、鉢合う受験者同士でお互いを潰し合うという行為があちらこちらで起こっていた。
「どうやら迷路のように穴と穴同士が繋がってるみたいだ★さて、どうやって出口とやらを見つけ出そうかな◆」
「あの…手、離してくれませんか?」
「ダ、メv」
そんな殺伐とした空気を物ともせず、ヒソカと青年は淡々と同じような会話を繰り広げていた。
たった今、ヒソカの手によって事切れた受験者の一人がドサリと崩れ落ちる。
もうこれで何人目になるか分からない。
この空気に精神を食い尽くされた受験者が襲い掛かってくる度、ヒソカは青年に見せ付けるように、わざと血飛沫をあげて殺し続けていた。
「(やっぱり、イイねv)」
―――スマートだった。動きから何もかもが。
ヒソカはクッと笑い、更に手のひらに力を込めた。
大量の血を見ても物怖じしない。
常にボクに警戒心を払い、監視している。
意味もなくずっと手を繋いでいたけど、振り払う気配も無かった。
それがなんとなく嬉しかったから、わざと彼が良く見えるように受験者を潰し続けている。
……そういえば。
彼を初めて見たときの違和感。まだハッキリしてないんだよね。
彼もまだイマイチ緊張が解けてないみたいだし。
少し交流でもしてみようか。
「キミ、名前は?★」
「……」
ん〜、強情だなぁ◆
あんまり意地っ張りだと
イタズラしたくなっちゃうじゃないか★
「
名前は?★」
「です!」
『―――蜘蛛に入るなら覚えておけ。…本当の4番は生きている。アイツは俺たちの仲間だ―――』
――――…。
現在シングルで活動しているフリーの殺し屋。
もっとも有名なアマチュアの暗殺者。
推定懸賞額2000億ジェニー。
一切の個人情報は不明。唯一、流星街出身の者ではないかとの噂がある。
そして、元幻影旅団メンバー。
「クックック…そうかそうか、キミがあの…◆」
まさかこんな所で出会えるだなんてね…。
団長達が血眼で捜している、消えてしまった元4番。
覚えがあるのになかなか思い出せないハズだ。
だって彼とは、メンバー達の思い出話の中でしか会ったことがないのだから。
「でも想像とは少し違ったかな★でもこれはこれで美味しそうだv」
と会ったと言ったら、団長は一体どんな顔をするんだろう。
ああ、考えるだけでゾクゾクしちゃうね…◆
でもその前に彼とちゃんとした死合いがしたいなぁ。
仮初の4番に興味なんかないけど、きちんと決めるものは決めておかないとね。
動かなくなったの死体だけ団員の前に持っていくのも面白そうだ。
そんな風にボクが一人悦に入っていた時だった。
空気が瞬時に、凍りつく。
「…どこまで俺を知ってるんだ?」
明らかに先ほどまでとは違う雰囲気に、ボクはゆっくりと顔を向けた。
ガラス越しに刺さる、針のような視線。
肌を撫でる度にピリピリとした感触を残していくオーラが、の元から止め処なく発せられる。
「そうだね…。会ったのは初めてだよ◆」
徐々にボクの奥底から熱が沸いてくる。
ダメダメ、まだ 早い
「俺もお前と会ったのは初めてだ。なのに何で俺を知っている」
「やだなぁ★キミは有名じゃないか◆」
段々と大勢の気配が近づいてくるのを感じつつも、ボクの理性はあと一息で吹っ飛んでしまうところだった。
「(ああもう…キミがあまりにイイ目をするから…★)」
ヒソカは最後に妖しげな笑みをに向け、光が零れる出口を仰ぎ見た。
「おや、出口だ★」
気まぐれで彼に投げかけた言葉は、団長達へのせめてもの恩沢だった。
だって彼は、これからずっと
ボクだけの オモチャになるんだから…ね。
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