年明けの少し肌寒い日。

カイトさんの紹介を受け、俺はナビゲーターと共にハンター試験の会場に向けて足を運んでいた。

…んだと思う。多分。

「なぁ、本当にココが試験会場の入り口なのか?」
「そうだ」
「…」

まあ定食屋が入り口になるくらいだしな。

毎年会場も変わるって言うし。



でも、さすがにこんな「東京デ●●ニーランド」を彷彿させる場所を選ぶのはちょっとどうかと思うぞ。



「あの城で行われているツアー型のアトラクションに参加しろ。食堂に入ったところで従業員に「持病の腰痛が酷くなった」と言うんだ。そうすれば会場まで案内してくれる」

持病の腰痛って…。

ハンター協会ってそういうトコ絶対楽しんでるよな。

「健闘を祈ってる。また案内が欲しかったら来年も俺を呼べよ」
「ハハッ。落ちたとしても来年再来年は絶対受けないけどな」

ナビのお兄さんと別れ、いい歳こいた男一人で俺はミステ●ーツアーへと乗り込んでいった。

「本日は皆様、ようこそこのツンデレラ城へとお越しくださいました!」
「ツンデレラ…」

ツンデレ。ツンデレ。と俺はぶつぶつ言いながら周りを見渡してみた。

どうやらこのグループ以外の2つのグループにそれぞれ一人ずつはカタギっぽくない人が紛れ込んでいるようだ。

…あの人たちも「合言葉」言うんだろうな。

ヤベェ絶対笑う。

ちゃんと言えるか不安になってきたぞ。

「では次は食堂へとご案内致します」
「あ、あの。じ…持病の腰痛が酷くなって…」
「…!ではあそこにいる係員に付いて行って下さい」

小声で言った俺の言葉に目を光らせて、その従業員はある非常口の下に立っている係員らしき人を指差した。

ああ…一般客の視線が痛い。

小さくなりながらそそくさとその人の元へ向かうと、さっき見た受験者の二人も同じように身を潜めながら歩いてきた。

チラっと伺えば同じように目が合う。

…お互い試験、頑張ろうな。

「コチラです」

そう言われエレベーターに乗り込むと、ボタンも押していないのに勝手に下へと降り始めた。

もの凄い勢いで下へと下るさまは、他のアトラクションなんか比にならないくらい恐ろしい。

…ジェットコースター好きだけど、こういった落ちる系は超苦手なんだよ!



チーン



壁に手を着きガクガクと震えていると、B300を示したところで出口が開いた。

地下300階ってどんだけ掘ったんだよ!

こう、マントルとか危ないんじゃないのか!?圧力は!?酸素は!?

顔色一つ変わっていない他の二人はさっさと出て行ってプレートを受け取っている。

全員こんな奴らばっかりなのか?…やっぱり俺にはこの試験ムリだって。カイトさんのバカ。

「大丈夫ですか?試験続行できますか?」

カイトさんに八つ当たりしていると、未だエレベータの壁にもたれ掛かっている俺を覗き込むようにマーメンが話しかけてきた。

本当に豆のようだ。富樫先生も相変わらずネーミングセンス抜群だな。

「平気です…」
「…そ、そうですか。では、ナンバープレートを受け取ってください」

やっとエレベーターから出てきた俺に「69」の番号札が渡された。

え〜と…なんとも微妙な…。こう、体位を思い浮かべてしまった俺はまだまだ青い証拠なのだろうか。

ゴホッゴホッ、いやはや失礼。

「(んー…それにしてもまた奇妙な部屋だな…)」

大人数の老若男女がひしめき合うこの空間には、人一人が通れそうな穴が無数に開いていた。

半球体の洞穴のようなココからきっと枝分かれになるように掘られているんだろう。

ああ、なんとなく一次試験の予想が付いたぞ。

「やあ君、新人だね!」
「…あ」

試験のイメトレをしていた俺に、どうも見覚えのあるブサイクなおっさんが声を掛けてきた。

そういやコイツ、30年連続で試験に参加してるんだっけ。

「俺はトンパって言うんだ。もう何回も試験を受けてるベテランだから、何か分からないことがあったらなんでも聞けよ」
「…」
「…え、えっと…。あ、そうだ、まだ少ないけど俺が知ってる常連たちを紹介してやるよ!」

あんまり原作の奴らに関わりあいたくないんだけど…。てかコイツに関わっても百害あって一利なしだ。

「で、アイツはヘビ使いのバーボンって奴だ。敵に回すとしつこいから気をつけろよ。で、後は…」
「もう良い。俺、一人になりたいから」
「えっ!?」

なんか後ろでごちゃごちゃ言っていたけど、無視して穴のあいていない壁際に腰を下ろした。

今年が何人集まるか分かんないけど、まだ当分は試験も始まらないだろう。

サトツさんみたいにベルで起こしてくれるような試験管であることを祈りつつ、俺はゆっくり目を閉じた。






















ジリリリリリリリリリリ


「…うるせ…」

でっけぇ目覚ましだな…。俺の目覚ましってこんな音だっけ?

「いつまで寝てるんだい?★」

うおー…高橋さんヴォイスだ。あれ、昨日テレビ付けっぱなしだったか?

今思うけど、あの菊丸とヒソカの声が同一人物だなんて信じられないよな。

「早く起きないと襲っちゃうよ◆」
「は」

軽く顎を掴まれたと思ったら、クイっと上を向かされた。

何事かと思って目を開けると、そこには


「―――――…!!!?」


ヒヒヒヒヒヒヒソカーーー!?

うっそ何で、え、いや、てか近い!!!

「こんな所で寝てるとアブないよ★それにもう試験は始まっている◆」

ヒソカはあまりに驚いて声が出ない俺の顔を至近距離で眺め、「イイ顔だv」などとほざいてる。

ちょっと待て俺、良く考えればヒソカって286期も受けてるんだよな!

「(なんで気付かなかったんだ俺は…!!!バカだ、もう俺の未来絶望的!!)」

震えすら起きず顔面蒼白な俺に構わず襟首を掴み、ヒソカは引きずるようにしてすぐそばの穴へと入っていった。





「どうやら迷路のように穴と穴同士が繋がってるみたいだ★さて、どうやって出口とやらを見つけ出そうかな◆」
「あの…手、離してくれませんか?」
「ダ、メv」

手袋はしていたが、変態の体温が直に伝わってきて生きた心地がしない。

さっきから受験者に出会うたびに、ヒソカは俺の手を繋いだままで殺しをするもんだから、俺は本気で泣きたくなっていた。

「キミ、名前は?★」
「……」
名前は?★」
です!」

もはや会話ではなくヒソカの一方的な語り。そして質問ではなく脅迫だ。

ヒソカは俺の名前を聞いたとたん、この世のものとは思えないほどおぞましい笑顔を浮かべた。

…き、消えてしまいたい。

「そうかそうか、キミがあの…◆」
「?」
「でも想像とは少し違ったかな★でもこれはこれで美味しそうだv」
「うっ」

ぺろりと舌なめずりする姿には引いたが、それよりもヒソカの発言の方が気になった。

もしかしなくてもソレは、「もう一人の俺」のヒントなのでは・・・?

しょうがない。ここは思い切って駆け引きに出るか。

「…どこまで俺を知ってるんだ?」

俺がその言葉を放ったとたん、ヒソカはぴたりと歩みを止めた。

ゆっくりとコチラを振り向くと、何を考えているのか分からない瞳とかち合う。

先ほどまでの一方的な会話などではない。

これは駆け引きなのだ。

「そうだね…。会ったのは初めてだよ◆」
「俺もお前と会ったのは初めてだ。なのに何で俺を知っている」
「やだなぁ★キミは有名じゃないか◆」

まさか自覚無かったのかい?とヒソカは言う。

この世界に来てからの3ヶ月、俺は小さな島国のド田舎でずっとジンさんの元で修行をしていたんだ。

何か仕事をしていたワケでもない。町ではそこそこ有名だったけど、ソレこそド田舎レベルの話だ。

つまりヒソカが言っている「」は俺ではなく、俺の探している「もう一人の自分」のこと。

…それにしても「もう一人の俺」、お前は一体何をしてるヤツなんだ?

「おや、出口だ★」

薄暗い細道を抜けたところで、数十人が集まっている広い本道に出た。

もう少し聞きたいことがあったのだけど、これ以上ヒソカと関わり合いになりたくない。

そんなに有名ならば合格した後にでもまた調べればいいのだ。きっと情報もたくさん掴める。

そう考えをまとめ、俺は挨拶もせずヒソカの元から離れようとした。

「団長もずっとキミを探しているよ★殺されはしないと思うから、意地を張らず一度は顔を見せてあげたらどうだい?◆」
「幻影旅団団長が…?!」

思わず振り向きヒソカを見ると、すでにヒソカは背を向けてその場を去っていた。

彼の周りを人が避けるようにして道を開けているのを唖然と見つめる。

「やっぱり幻影旅団と関わりがあんのかよ…。ハハッ、まさか元メンバーだったりしてな」

自嘲気味に呟いた言葉があながちハズレていないこともつゆ知らず、俺はヒソカと同じように避けられて出来た空間にドサっと腰を下ろした。

試験はまだ、始まったばかり。