ドンドンドンドン!!
「おいジンさん!いるんだろ!?」
その後からちょうど1時間と37分後。
もの凄い勢いでドアを叩きながら誰かがやってきた。
…
いい加減天井がミシミシいってるんですが。
「ジン=フリークスなら先ほど俺とこの家を捨てて逃げましたがどちら様ですか?」
どちら様かなんて最初から分かってるけど。
ドア越しにそう言えば、相手のオーラが動揺するように揺れたのを感じた。
「…開けてもらっても良いか?」
あぁなんて謙虚で礼儀正しい言葉。
俺は穏やかなオーラに感動してしまい、目頭を押さえながらドアを開けた。
「どうぞどうぞ上がってください!小汚い家ですがいつまでもくつろいでいって構いませんので…っ!」
「はっ!?」
スラリとした身長に、長く美しい金髪。本の中で何度も見たカイトそのままの姿の彼がまじまじとこちらを眺めていた。
…美形に眺められるって恥ずかしい!
「…お前は?」
「とにかく話は中でゆっくり」
「あ、いや。俺はジンさんの居場所を教えてほしいだけなんだが…」
「あのタヌキオヤジならとっくに他の国に逃げたと思いますよ。逃げ足と箸使いだけは早いですから」
俺がそう言うと、カイトさんはハァと深いため息を吐いた。
美形のため息は凄まじく絵になる。
俺は心なしか胸がときめいてしまった。
「…ま、まぁまぁどうぞ中に入ってください。折角だし語り合いましょうよ、色々聞きたいこともあるし」
「…お邪魔します」
うん、お酒を大量に買い込んできてよかった。
「………でさぁ、そこでジンさんが何て言ったかって言うと…」
「『オレがやりたいから』だろ?」
「そーそー!もー理不尽ったらありゃしない!!」
なんて話が合うんだ!もうこれは運命の出会いだね!と俺が肩を叩いてからだいたい2日経った。
「ゲホッ。あ゛ー、喉ガラガラだ」
「そりゃ寝ずに酒飲んで語り明かせば喉も潰れるよなー」
「そう言えば、お前仕事はしてないのか?」
おーい。もう酒が切れたぞー。
泥酔の中の更に泥酔にハマっている俺の手には、空き瓶がぶらさがって行き場をなくしていた。
ん?仕事??唐突な質問だな。
「仕事かー。ほとんどジンさんの家政夫やってたから考えたこともなかったなー…」
というより考えるヒマが無かったというか。
「…そうか」
ふと考え込むようにカイトさんは腕を組んだ。
つかカイトさん、結構酒、強いのな。ほとんど素面だし。
「お前、これからどうするつもりなんだ?ジンさんを探すのか?」
「う〜んどうしよう…金もないし。てかジンさんを探すなんてクソメンドイ」
「そのクソメンドイことを俺はやらされてるんだけどな」
「見かけたりしたらすぐ連絡入れるから。頑張れ」
俺は全面的に兄弟子の味方だぞ。
「で、仕事のことだ。話を聞く限りお前はこの国から出たことがないと」
うん。まあ間違っちゃいないよな。
取りあえず第一発見者のジンさんには、俺の元の世界の話も、風呂場に現れたナゾの変質者の話もしている。
と言うよりそれを説明しないと俺、あの時完全に原始人だったし。
でもこれからの話。
俺はどこの誰にも、自分が「異世界人」だということをバラすつもりはない。
それは全て、俺自身がそういう”誓約”をしたからだ。
「でもお前は、出来る限り広い範囲での情報収集をしていきたいと」
「ああ。なんかうまい仕事ないか?」
「ある」
「えっ、マジで!?」
そんな都合のいい仕事本当にあるの!?いや、あるなら文句は言いませんけど。
でも俺、文字を読むのも未だに幼稚園児並だぞ?
「俺とジンさんと同じ仕事。ハンターだ」
「………」
はい、みなさんおはようございます!
朝一番に新鮮なニュースをお届けする「お目覚めフラッシュ!」の時間がやってきました!
今日のゲストは政治評論家のボンソワーソ坂田さんでございますパチパチパチ…
「(ハッ!いっいかん、意識が)」
あまりの衝撃に、徹夜した日にしか拝むことの出来ない幻の番組が脳内でフラッシュバックしてしまった。
「ライセンスさえあればパソコンがあるだけで大抵の情報は買えるし、家に引きこもっていても十分に稼げる仕事も入ってくる」
「やっ、でもそれって、倍率が何万人に一人とかのヤバイ試験受けないといけないんだろ?俺にはムリだって」
「お前ならよほどの事がない限り受かるだろう。今年でいくつだ?」
「21だけど。だからムリだってば」
「それなら保護者の同意は必要ないな。期限はたしか来週までだから早めに申し込んでおいたほうがいいぞ」
なんてこった、カイトさんて意外と直進型タイプだったんだな。
…ん?でも待てよ。
計算によれば原作がスタートするのは来年。
今回のテストに受かってしまえば主要キャラに鉢合わせする確立はぐっと下がるわけだ。
確実に受かるなら、試験内容の分かっている287期を受けたほうが良いんだろうけど。
でもそのままズルズルとキャラ達と付き合いが続いてしまう可能性のほうが、俺にとっては怖い。
…これは今しかないかも。
「…分かったカイトさん。俺受けるよ」
「そうか…。まあ内容によるだろうが、念を既に覚えているお前ならハンデすらいらないだろう。気楽に行けよ」
「よっしゃ!やるなら絶対受かる!!」
ズゴゴゴゴ と拳を突き上げ気合を入れる。
ぶっちゃけハンターになる気なんて最初からなかったけど、元の世界に帰るためにはきっとライセンスが近道になるはず。
それに、これを今の自分の強さを確かめる、良いチャンスだと思えばいいのだ。
そうと決めたら、試験までになんとかこの念を使えるくらいまでには完成させておかないといけない。
折角おっちゃんにメガネを作ってもらったんだし。
そう意気込んでいると、じっとカイトさんが俺の拳を凝視しているのに気が付いた。
「…それ、一体どんなケガをしたんだ?」
指を指された部分に目をやれば、右の手の甲全体に広がる、大きな火傷の跡のような傷が。
「コレ?えーと…俺も良く覚えてないんだけど。火傷かな」
「小さい頃の傷跡か。それは火傷と言うより…皮膚を削り取ったような跡だな」
「うげっ」
削り取るってどんだけグロテスクなんだよ。じゃあこれって、肉が剥き出しになってる状態なわけ?
ゲロロロロロ そんなこと言われたらますます気味悪いじゃんかー!
俺はカイトさんに思いっきり酒瓶を投げ、近くにあったハンカチでその右手をぐるぐる巻きにした。
実はこの傷跡、俺がこの世界に来たときに同時に現れたものだった。
なにかの弾みでケガをした訳ではなく、最初からあったかのように存在する傷跡。
まるで何年も前からあるかのような跡。
最初の頃こそ不気味がっていたが、「異世界に来た証かなんかだろ」と自己完結をしてそのまま放置していた。
身に覚えのない傷。もしかしたら「もう一人の自分」のヒントかもしれない。
それにこの傷には少しだけ、特殊な性質のようなものがあるのも分かっていた。
…幻影旅団
「っ」
ピリっと痛む甲を布の上から押さえ込む。
「その傷、未だに痛むのか?」
「…たまにね」
…そう、何故かこの傷は、あのA級賞金首。「幻影旅団」に反応するかのように痛みをあげるのだ。
彼らのことを欠片でも思い浮かべるだけで、こうなる。
「…まるで呪いのようだな」
「やめてよ洒落にならない」
ギギギとカイトさんを睨みあげると、彼は他人事とばかりに酒を呷った。
…とにかくそんなことよりハンター試験だ。
折角素晴らしいハンターが目の前に居るんだし、今から試験の傾向と対策を練らなければなっ。
≪ ≫