俺があの時記憶してるのは

相手が意外と念を使うのが上手かったから、俺も本気で向かっていって

そうたしか…、相手にほんの少しの隙が出来たから、右手でぶっ飛ばそうと流を行ったんだ。

そしたら何故か、俺の右手は相手の肉に触れずに


そのまま すり抜けるように通過して




















「相手、内臓破裂で死んだとよ」

シュバルトが俺の隣に腰を下ろす。

何も返事をしない俺にふぅと息を吐いて、そのままテレビのリモコンに手を伸ばした。

割り当てられた個室は相変わらず静か。俺はあの試合以来一切口を利いていなかった。



殺すつもりなんて、あるわけなかったのに。



「…あ〜、なんの因果かねぇ…」

俺に向って言ったわけではない、シュバルトの呟きが空気に溶け込む。

言葉の真意を問いただすこともできなかった。

今の俺は、何かを必死に考えようとして何も考えられないのだ。





つもり(、、、)はなくても、俺はこの手で 人を殺した。

一滴も血は付いてないのに、俺の右手が真っ赤に染まって見えた。

法で裁かれもせず。どこまでも実感のないヒトゴロシ。





「一応試合は一週間後って事になったからな。それまでにその力をなんとかコントロールできるようにするぞ」
「………その力って…なんだよ。コントロールって、なんだよ!!」





ムカツクほど冷静なシュバルトの胸倉を掴み上げ、俺はここにきて始めて声を上げた。震えた、叫び声しか出なかった。

「落ち着け。…お前、人を殺したのは初めてか」
「初めてに決まってんだろ!!三ヶ月前までケンカすら滅多にやらなかった俺が、人を殺す…っなんて!!」
「…ハァ。いいか、良く聞け。お前のアレは、念能力だ」

強い瞳が俺の昂ぶる感情を鎮める。更に抑揚のない声で宥められ、俺はフーフーと荒い息を吐きながらも頭を冷やした。

…念能力。アレが。

あんな力は知らない。第一俺は、強化系だろうが。



「今のお前は強化系でありながら、特質系の念を併せ持つ能力者だ」



何かを確信したシュバルトが言い切る。

俺は突然の言葉に混乱しながらも、必死に自前の知識をフル稼働して情報を処理した。

「つまり俺は、後天的な特質系念能力者ということか」
「その可能性が高い…が。お前、今までどういった念を使っていた」
「…メガネと凝を使って、自分の近辺の何かを検索する”千里眼”って念だけど」
「…変わってんな。でもその念は強化系というだけじゃ説明しきれん部分もある。なんだかんだで特質の資質も元々あったのだろう」
「んなバカな話」
「ありえん話じゃないさ。第一俺は全く同じ例を知っている」

冷静なシュバルトの言葉の輪郭を、俺はボンヤリとだが見出していた。

「””…か」

俺の言葉にシュバルトは静かに目を伏せ頷いた。

人殺しの念能力。どうしてそこまでしてリンクさせる必要があるんだ。俺とには、一体何の因縁があるっていうんだよ。

とたんにこみ上げてくる悔しさ。

爪が食い込みそうなほど、俺は右手を握り締めた。

「俺様の見解が正しければその能力は、直接触れることなく人間の体内を破壊するっちゅー能力だ」
「直接、触れることなく…?」
「ああ。だから今回のアレは、相手の身体をすり抜けたように見えて実はその体内を攻撃していたことになるな」
「…」



触れることなく、体内を。



俺はその時一瞬浮かんだ考えに、戦慄するほど恐ろしさを感じた。

それが本当なら、俺は簡単に人を殺すことが出来るだろう。

例え相手がどんなに屈強な肉体を持ち合わせてようと、どんなに強固な鎧を纏っていようと。

俺の手は、簡単に人の心臓を握りつぶすことが出来るということだ。

このスピードと能力を使えば、簡単に。


「反則だろこんな力…裏技にも程があるっつーんだよ」


クソ重たい何かが「俺を受け入れろ」と言って圧し掛かってくる。

強くなりたいという欲望はあるけど、そんないきなり殺傷能力の高いモンを受け入れられる程俺は図太くない。

チクショウ畜生…!なんだってこんなことに!



「お前は、そうやって悩むんだな」
「…は?」



俺がギロリと睨むと、シュバルトは笑って「いや、何でもない」と言いはぐらかした。

とにかく今は、自分自身をどうするかを考えないといけない。

コントロール…ってことはコイツならこの能力を上手く使いこなせる方法を知っているのだろう。

それなら俺が望まなければもう二度こんなことは起こらない。後悔なんてしなくて済む。

それにもう俺は200階に来てしまったんだ。いやでも念能力者と戦わなければならない。

この一週間の間になんとかこの能力を操れるようになって……なんかもうめんどくせぇな。




「だぁーもう目覚めちまったもんはしょうがない!受け入れて(、、、、、)やろうじゃねーの!!」




俺が地球人で一番になってやるんだ!クリリンを超えてやるんだ!!と叫びながらベッドに立ち上がる。

鋭い刃だって横にさえ引かなければヒゲも剃れるんだ、要は使いよう。俺の器量次第。

この俺に不可能はない!

「頼むシュバルト。俺にこの能力の使い方を教えてくれ」
「…ハハッ。お前はとことん面白いヤツだ。そんなん言われなくてもこの俺が直々に叩き込んでやる」
「よし!そうと決まればもう今日は寝る!!」




色んな覚悟を俺は決めなければならない。

ココ、天空闘技場はそういう場所だ。

うっし!明日から久々の念修行、張り切っていきますか!





















































今巷では、この200階を震撼させるある噂が流れている。

前代未聞。なんと50階での一試合で200階に上がってきた奴がいると。

そして何よりも人々から恐れられているのは、その試合内容だということ。

少々話は変わるが以前よりある選手が注目を浴びていた。

具現化系能力者アロワナ選手。彼は元々ある業界では腕も実業もピカイチでその名が知れ渡っていたと言う。

修行と言う名目でこの天空闘技場にやってきた彼は、一階に居た時からこの200階の選手も一目を置いていた。

「手強いライバルが来た」
「彼なら200階に上るのも時間の問題だろう」

と。

しかしその選手は200階に登る前に敗退したという。

死 という形で。



「(手が、すり抜けた…?)」



試合を見たものに言わせれば、「その時手が腹をすり抜けた」と言って顔を青くさせる。

誰も「貫通」したとは言わない。実際彼の死体は、一滴の血も流れなかったと言う。血泡、以外は。

そしてアロワナ選手は内臓破裂で死亡した。

「鬼か蛇か…。だが確実に言えることは相当な念使いだということだ」

初戦で敗退して以来、私は一度として負けたことがない。

今やフロアマスタークラスの実力者と謳われることにしても私自身はそれを買い被りとは思っていない。

全ては、ヒソカをこの手で倒す為に。





「っだぁーーーー!!しつこいんだよこのカマ男!!!」
ああん!?もういっぺん言ってみろキサマ!!
「なんべんだって言ってやるよこの源氏名ロゼリザくまさんパンツのカマ男がぁ!!!」
ぶっ飛ばす!!!!!



「な…なんだ…??」





レストランの入り口からもの凄い勢いで何かが飛び出してきた。

自分の部屋に入ろうとしていた私は、あまりのそのインパクトに思わずドアノブを掴んでいた手を止めてしまう。

その3秒後に私はその行為を後悔することになった。

「!! そこのロンゲ!頼む俺を匿ってくれ!!」
「はっ!?わ、私か!?」
「兎に角早く部屋に入れてくれーー!」

グッと腕を引かれて問答無用に部屋の中に引っ張り込まれる。

ガチャリと鍵を閉めたその男は、スコープに顔を貼り付けてドアの向こうを食い入るように凝視した。

『ドコに行きやがったぁーーーー!!!!』

ドドドドドドとものすごい勢いで何かが通り過ぎた。…私は何かとんでもないことに巻き込まれたのではないだろうか。

「…ふぅ。行ったな…」
「……」

ズルズルとドアを背に座り込んだその男。

じっと私が眺めていると、その男はようやくその視線に気が付いたかのようにぱっと顔を上げた。

「あ、なんか悪いな。5分くらいで良いからもうちょっと居させて」

無邪気な笑顔をニッと浮かべて言うもんだから、私の方まで何か毒気が抜かれてしまった。

「…そんな所に座ってないで奥に入れば良い」
「え?」

きょとんと目を見開いて男は私を見上げる。

そんな表情に思わず私は噴出してしまった。

「目の届かない所に居られても逆に気になるしな。私は構わないから上がれ」
「ははっ。それもそうだな、それじゃ、今更だけどお邪魔しま〜す」

不思議な男だ。

一目で相当な能力者だということが分かるのに、全く警戒心を抱かせない。

念を使うのならばこの男も選手なのだろう。

「見ない顔だな。200階に来たのは最近か?」
「そうだなー、割と最近かな。まだここで試合してないし」
「そうか…で、先程の男とはどんな関係なんだ。(カマとかなんとか言っていたけど…)」
「どんな関係かと言われれば師匠と弟子なるんだろうな…俺としては激しく他人になりたい時はあるけど」
「し、ししょう…だったのか」

果たして私は師匠相手にやれ「カマ男」だとかやれ「くまさんパンツ」などと言った事があっただろうか…。

「なーんか俺でカツカレー定食が品切れになったとかでさ、俺が完食するまでしつこく横取りしようとしてくるんだよ」
「ほ、ほお…?」
「おかげでゆっくり食べれなかったっつーの!食い終わった後もグチグチグチグチしつこいし」

そうやってかれこれ小一時間程、主にその男のグチに付き合っていて時間が経ってしまった。

何故か後半になれば私もだんだんと饒舌になってゆき、時を忘れてその男との会話を楽しんでいたのに気付く。

そう言えばまだ名前すらお互い知らないというのに。

久々に人との接触で私も心を許してしまったというのか。それとも…。

「あ、ヤベ。もうこんな時間じゃん。あ〜あいつの修行は妙に体育会系で暑苦しいんだよな…めんどくせー」
「贅沢なことを言うな。あの伝説のシュバルト選手に教えられるだけでも素晴らしいと思えば良いだろう」
「それ!未だに信じられないんだけどさ、ホントにシュバルトってそんなに凄いヤツだったわけ?」
「当たり前だ!ここに長く居る者なら知らない人間は居ないだろう。彼はバトルオリンピアにて不敗の伝説を打ち立てた素晴らしい選手なのだからな」
「うげ〜妙にシュバルトに握手を求める連中が多いわけだ」

まあ私からすれば憧れの選手が女装してあまつくまさん柄のパンツを穿いていた事の方が信じられないけどな。

「とにかく君はもう部屋に戻った方がいい。師匠が待っているのだろう」
「…はあ。しょうがねーか。なんか長く居座っちまったな」
「構わないさ。私も楽しかったからな」
「ハハッ俺もだ」

この無邪気な笑顔ももう見慣れた。人を惹きつける、素晴らしい笑顔だと私は思う。

きっと太陽のような道を歩んできたのだろう。

私とは、違って。




「そういや名前、まだ言ってなかったな。俺は
「私はカストロだ」




ほんの一瞬 彼の顔が強張った。

しかし私の方も…その名になにか妙な引っ掛かりを覚えた。

「…カストロ、か。これからも宜しくな」
「ああ、とはこれからも縁が続きそうだ。宜しく」

それでも最後までお互い笑顔を絶やすことはなかった。多少、彼の方は違和感が残っていたけれども。

とは一回試合を頼みたいな」

と私が言い残した言葉にも「ああ」と一言ぎこちない笑顔で返してきた。

バタンとドアが閉まり、部屋には静寂が戻る。

心地良い余韻を残した静寂に、自然と口元が釣りあがる。

…私は彼に相当入れ込んでしまったようだな。

偶然の出会い方とはいえ、私は彼に出会えてよかったと思えた。

次の試合は彼がいいと思った。実力も間違いなく高いだろう、との戦いは、絶対に面白くなると確信していた。

「たしか…四日後と言っていたかな」

200階での初試合は四日後に入れると言っていた。まだ、彼の対戦相手が決まっていなければ良いのだけど。



「(今から申し込みに行ってくるか)」



そう思い立ち私は立ち上がった。

受付で用紙を提出すれば、運良く私は彼と試合が組めることとなった。

新人である彼が、新人潰しの連中に捕まっていなかったのは運が良かったとしかその時は思わなかった。

しかし次の日、偶然に入った耳を疑うような言葉に、私は心臓を躍らせることになる。






「”内蔵潰し”の、初戦があのカストロになったらしいぜ」












私は彼を…試合最後まで信じきることができるだろか。